雇用統計

▼発表スケジュール
雇用統計調査週の3週間後の金曜日

雇用統計とは事業所調査と家計調査からなる包括的な労働統計、市場の注目度が高い経済指標。雇用統計は速報性に優れており、雇用統計調査週の3週間後の金曜日に発表される。ヘッドラインの非農業部門雇用者数は事業所調査、失業率は家計調査によって作成されている。

▼事業所調査(非農業部門雇用者数)
事業所調査は毎月14.4万社の企業および政府関連機関に対するサーベイ調査を指す。調査対象のうち、40%程度は従業者約20人未満の中小企業で構成されている。ヘッドラインの非農業部門雇用者数は、農業部門以外で、フルタイムまたはパートタイムの労働に従事し、雇用統計調査機関に労働への対価が支払われた人数であり、派遣労働者や有給休暇中の労働者も含まれる。ストライキ参加者や病休者も、雇用統計調査機関に一度でも労働報酬を受けていれば雇用者数に含まれる。一方、起業家、個人事業主、家族従事者、ボランティア労働者、農業部門の労働者、家庭内労働者、軍人等は雇用者数から除外される。
非農業部門雇用者数は、財生産業、民間サービス産業、政府部門の三大業種に分類される。ヘッドラインの雇用者数に加え、政府部門を除いた民間雇用者数も注目される。

BLSは毎年2月発表の1月分雇用統計でベンチーマーク調整を実施している。月次雇用統計の非農業部門雇用者数は41万事業所のサンプルに基づいて作成された後、州失業保険プログラムに基づく最も包括的な統計の毎年3月時点の集計値をベンチマークとし、前々年4月~前年3月の12か月分のデータが修正される。BLSは毎年10月に翌年発表のベンチマーク調整の推定を発表する。
BLSは2021年1月分雇用統計のベンチマーク調整で、2020年3月の雇用者数の水準を4.2万人かほうしゅうせいした。ベンチマーク調整の動向を見ると、2007~2010年は大幅な下方修正が目立っていたが、その後の修正幅は小幅に留まっている。

Birth/Deathモデルで計算されたファクターに基づき、サンプル調整では捉えきれない毎月の開業/廃業による雇用の創出/喪失を調整している。毎年のBM調整時に最新情報を加味して更新されるBirth/Deathファクターに基づき、前年4月~前年12月の9か月分の雇用者数が修正されている。BLSはベンチマーク調整時の雇用者数の修正幅を小さくするため、Birth/Deathファクターの更新頻度を従来の1年毎から四半期毎に2011年より変更した。

ストライキと雇用統計

ストライキの事業所調査に対する影響を見る上では、ストライキが雇用統計調査機関のうち、どれだけの期間にわたって行われていたかが重要。雇用統計調査期間中に一度も賃金支払いが行われていなければ、事業所調査では雇用者数に計上されない。一方、雇用統計調査期間中に一度でも賃金支払いが行われれば雇用者数に計上されるが、労働時間はストライキの影響を受ける。

▼市場の注目点
雇用面から個人消費の動向を見る上では、小売、教育・医療、娯楽・宿泊などの家計需要に関連する業種に注目。
非農業部門雇用者数は速報発表後2カ月間にわたり、追加的な情報を反映させる形で遡及改定される。しばしば大幅な改定が行われるので過去2か月間の修正にも注目。(景気拡大局面では上方修正されやすく、景気縮小局面では下方修正される)
事業所調査では非農業部門の雇用者数に加え、業種別の週平均労働時間、時間当たり賃金、総労働投入時間(民間雇用者数*週平均労働時間)などのデータが発表されている。これらの数字から、雇用統計ベースの労働所得を求めることができる。(なお、時間当たり賃金は自発的失業者の全失業者に占める割合と連動性が高い。)

▼家計調査
家計調査は毎月6万世帯に対するサーベイによって行われている。調査対象は生産年齢人口(16歳以上)だが、病院、老人ホーム、刑務所等の施設におり働けない人口および軍人は対象外である。家計調査では、生産年齢人口が労働力人口と非労働力人口に分類され、さらに労働力人口が就業者と失業者に分類される。労働力人口を生産年齢人口で除したものが労働参加率、失業者数を労働力人口で除したものが失業率となる。なお、家計調査の就業者数、失業者数などのデータには新たな人口推計に基づき毎年1月に断続が生じるため、これらの前年比の変化を計算することに意味はない。

事業所調査の非農業部門雇用者数と家計調査ベースの雇用者数(失業者数)では事業所調査の方が統計的な信頼性が高い。90%信頼区間は非農業部門雇用者数が±11万人、家計調査の失業者数は±30万人となっている。

家計調査の中で最も注目されるのが失業率の動向である。失業率の低下は、失業者数の減少、就業者数の増加、またはその両方を意味する。労働参加率の低下は失業率をテクニカルに押し下げるため、失業率と合わせて労働参加率の動向を見ることが重要。対象範囲が異なる6種類の失業率統計が発表されている。この中で最も広義の失業率を表す以下の司法が労働市場全体を見る上で重視されており、FRB内でも注目度が高まっている指標である。

・(完全失業者+縁辺労働力+経済的理由によるパートタイム)/(労働力人口+縁辺労働力)
※「縁辺労働力」とは「過去12か月間に求職しており、雇用統計調査週に勤労可能だったが、雇用統計調査週前の4週間は求職しなかったもの」を指す。「経済的理由によるパートタイム(part-time for economic reasons)」とは、労働時間の削減(slack work)、不利な事業環境、フルタイム労働が見つからない、季節的な需要撤退といった経済的理由でパートタイム(1-35時間)でしか就労できなかったパートタイム労働者を指す。一方、「非経済的理由によるパートタイム」とは育児、家事、個人的義務、教育・訓練、退職、社会保障上の所得制限などの非経済的理由でパートタイムでしか就労できなかった労働者を指す。なお、通常はフルタイムだが、休暇、病気、悪天候によってパートタイムでしか就労できなかった労働者は含まれない。

年齢別、男女別、学歴別などの属性別の失業率のデータも発表されている。労働市場の「買」を見る上では、プライム・エイジの男性の雇用動向も注目。失業者の理由別内訳では、よりよい職を求めて自ら離職した「自発的失業者」や職探しを再開した「再参入者」の増加は雇用環境の改善を示唆する一方、解雇等による「非自発的失業者」の増加は懸念される。米国では学年度の終わりが夏季にあたることから、6-9月に「新規参入者」の変動幅が大きくなる傾向がある。

平均失業期間は2008年の世界金融危機以降に急激に長期化し、2011年7月に40.7週間と戦後最高を記録した後、景気回復とともに改善が見られたが、2020年に再び急上昇した。また、27週間以上の長期失業者が全失業者に占める割合は2010年4月に45.5%と過去最高を記録し、一時長期失業問題が重視されていた。

NAIRUとは、インフレを加速させない失業率の水準の事であり、自然失業率と類似した概念である。一般的にはCBO(議会予算局)のNAIRUが言及されることが多いが、フィラデルフィア連銀のSPF(Survey of Professional Forecasters)ではNAIRU推計値のコンセンサスが公表されている。FOMCのNAIRUの推計値としては、四半期経済予測の失業率の長期見通しを参照したい。NAIRUは失業者の効率的な最終力を妨げる以下のような摩擦によって上昇すると考えられている。

・失業者のスキルと企業の労働需要のミスマッチ
・持ち家の評価額がローン残高を下回ることによる地理的な可動性の低下
・手厚い失業手当が就労意欲を損なっている可能性
・長期失業によるスキルの劣化や業界からの疎遠化

労働参加率は2000年頃をピークに低下が続いている。労働参加率の主な決定要因は人口動態と景気サイクルだが、基調的な労働参加率低下の主因は人口動態の変化だ。ベビー・ブーマーの高齢化で最高齢層の16歳以上人口に占める比率が上昇する一方、35-44歳人口の比率は低下している。米国の家計調査は生産年齢人口ではなく「16歳以上人口」を対象としているため、労働参加率の低い高齢者が人口に占める割合が上昇すると、全体の労働参加率は押し下げられることになる。就学期間の長期化や高齢化を理由に労働参加率は減少が予想されている。

悪天候が就業者数に及ぼす影響を季節調整前ベースで発表している。BLSによると、「仕事はあるが、悪天候により就労不能」または「通常はフルタイムだが、悪天候のためにパートタイム」となった労働者数は、12-2月に多くなる傾向がある。悪天候の影響を確認する上では、国立気候データセンターの「暖房度日」の指標にも注目したい。「暖房度日」とは暖房を必要とする基準温度を下回る日数を指し、「仕事はあるが悪天候により就労不能」との連動性が高い。

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