▼発表スケジュール
(速報)当該月末から原則として約25~29日後
(確報)当該月末から約35日後
貿易収支は、米国の民間および政府部門が外国との間で行った財・サービスの輸出入に関する月次統計。財の輸出入データは税関国境警備局に提出される申告書類、政府機関および業界団体からの情報等を基に集計。商品別、相手国・地域別、州別等の詳細を発表している。輸出額はFAS(船側渡し)で計上されており、船舶までの陸上運賃、保険料等の費用を含む。一方、輸入額は税関国境警備局への申告価格を基に計算されており、運賃、保険料等は含まれていない。
貿易収支の速報値は2015年7月から確報値の約1週間前に発表されるようになった。速報値の対象は財のみでサービスは含まれない。BEAはGDPの純輸出の算出に実質貿易収支を用いており、従来は四半期の最終月の純輸出について貿易収支の推計値を用いていたが、2015年4-6月期以降は貿易収支の速報値に基づいて計算している。
米国の貿易収支は、大幅な輸入超過が続いている。2020年の新型コロナウイルスの感染拡大によって、輸出と輸入はともに急減。衣料品、在宅勤務の増加を受けたIT製品需要などを背景に輸入は早期にcovid19発生前の水準を回復したが、輸出は低迷が続いている。トレンドを把握する上では、石油貿易収支と非石油貿易収支の動向を通目。2000年代半ば以降、米国ではシェール革命による原油生産拡大や2014年後半以降の原油安をけて、石油貿易赤字は縮小基調をたどり、2019年に黒字に転じた結果、石油貿易赤字は解消された。米国の原油生産高は原油価格の変動に降らされつつも、2010年代以降は急増。非石油貿易収支は2020年のコロナ禍における財消費急増を受けて赤字幅が拡大した。
貿易収支が実質GDP成長率に与える影響を見る上では、名目ではなく実質貿易収支を見る必要がある。
▼貿易相手国
財輸出では、カナダおよびEUがそれぞれ2割程度のシェアを占める最大貿易相手国。メキシコ、中国、日本がそれに続く。一方、財輸入を見ると、中国が2000年代に大きくシェアを拡大している。他には、2位がEU,3位がメキシコ、4位がカナダ、5位が日本となっている。
▼通商問題
トランプ政権は、米国の貿易赤字を問題視し対米貿易黒字が大きい中国、メキシコに対して関税をかけると主張、新たな通商関係を求める交渉を行った。背景には米国が2001年12月に中国へ恒久的な最恵国待遇を付与していこう、米国の製造業雇用が大幅に減少してしまったことがあると推測される。トランプ政権の対中関税引き上げを受けて、2018年以降は米国の中国からの輸入が減少に転じたが、2020年の新型コロナウイルス関連需要を背景に再び増加基調となった。
▼関税
WTO(世界貿易機構)加盟国の関税率はWTO関税データベースで国別・品目別の詳細が取得可能。加えて、WTOは世界関税プロフィールという年次報告書で各国の関税政策動向がまとめられている。米財務省の財政収支からは関税収入の推移を確認できる。トランプ政権下の一連の関税発動によって、米国の関税収入額は2018年半ばから急増し、歳入全体に占める割合も急上昇している。
▼通商政策上の大統領権限
米国憲法第一条は米国議会に関税を含む徴税権限および諸外国との通商を規制する権限を付与しており、大統領は上院の賛成を以って条約を締結する権限を持つが、関税を含む通商政策に関して明示的な権限を与えられてはいない。そのため、大統領の権限は議会から付与されたものに依拠することとなる。
▼保護主義と世界貿易
金融危機以降、世界貿易はすでに緩やかな縮小傾向に転じていたが、保護主義政策の台頭やCOVID19後のサプライチェーンの乱れで一段と後退している。COVID19終息後にグローバル企業によるサプライチェーンの見直しが行われ、製造業の国内回帰が進んだ場合、1990年代以降のグローバリゼーションの流れで恩恵を受けてきた新興国経済に対する逆風となろう。
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